大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)134号 判決 1967年1月28日

原告 大塚株式会社

被告 北税務署長

訴訟代理人 伴喬之輔 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、請求原因一、二の事実は当事者間に争いがなく、原告は、被告の再更正決定中、本件事業年度の所得金額金六、七二六、六三八円、法人税額金二、三八四、一〇〇円を超える部分は原告の所得を過大に認定した違法があると主張する。

二、よつて右再更正決定の当否につき検討するに、原告の本件事業年度における輸出取引による収入金額が金一七九、四四六、九二〇円であり、これにつき、原告が措置法第五五条第一項第一号おび第四号の規定を適用して輸出所得の損金算入額を金二、八八二、〇九八円と計算していたこと、これに対し、被告は同損金算入額を金一、三九二、九一五円と計算し、右原告計算額との差額金四八九、一八三円を当初の更正決定の所得金額金六、七二六、六三八円(原告主張の本件事業年度の所得金額)に加算して本件再更正決定および過少申告加算税賦課決定をなしたことは当事者間に争いがない。

三、よつて本件の争点たる右輸出所得の損金算入額について検討する。

(一)、ところで輸出所得の損金算入額は、各事業年度中の輸出取引による収入金額の一定の割合(措置法第五五条所定)に相当する金額と、右輸出取引にかかる各事業年度の所得の金額の一〇〇分の八〇に相当する金額とのいずれか少い金額によることとされている。

(二)、本件事業年度における輸出取引による収入金額を基礎とした輸出所得の損金算入額について。

(1)、右計算の基礎となる原告の本件事業年度における輸出収入金額は、(イ)原告が他から購入した物品の輸出による売上が金一一五、〇三五、九一一円、(ロ)原告自らが製造することにより取得した物品よ輸出にのる売上が金五四、三九一、三二五円、以上合計金一六九、四二七、二四六円であることは当事者間に争いがない。

(2)、従つて、原告が他から購入した物品の輸出による売上にかかる損金算入額は右(1) の(イ)の金額の一〇〇分の一に相当する金額たる金一、一五〇、三五九円となることは計算上明らかにして当事者間にも亦争いがない。

(3)、原告自らの製造により取得した物品の輸出による売上にかかる損金算入額について。

被告は、原告が他から購入した物品の販売を主たる業とし、常時物品の輸出を行う者であつて、措置法第五五条第一項第六号所定の輸出業者であり、従つて同法第五五条第四項第一号の適用があると主張する。これに反し、原告は措置法でいわゆる輸出業者とは措置法第五五条第一項第六号に明示するとおりであるが、右の輸出業者であるか否かは、その営業形態で区別すべきではなく、当該取引の態様により区別されるべきものである。従つて原告が他から物品を購入し、これを輸出する場合はそれが常時反復継続するかぎり、輸出業者の範疇に属するけれども原告がその負担において輸出物品の原材料を購入し、加工して輸出物品を製造し、自ら輸出する場合は同条第一項第四号にいう製造業者であつて同条第一項第六号にいう輸出業者ではない。要するに、原告は被告主張の取引(前記(四)の(2) の(イ)・(ロ)の取引)については自ら原材料を購入して製造加工したものを自ら輸出しているのであるから同条第四項第一号の適用の余地なく同条第一項第四号による損金算入額にしたがうべきであると主張する。そもそも措置法第五五条などの輸出所得に対する課税上の特例のもうけられた立法の理由および同法第五五条第一項第四号、第六号、同条第四項第一号の関係、二重損金算入回避の点にいては被告主張(四)の(5) の(ハ)において被告の主張するとおりである。要するに、同条第一項第四号は単に取引の態様の面から規定したものにとどまり取引の主体の面から規定したものではないから、右同号の取引主体には当然輸出業者とそれに非ざる者の両者を含むものである。ところが輸出業者、すなわち、他から購入した物品の販売を主たる業とする者で常時物品の輸出を行う者が第四号に掲げる取引をするときには、多くの場合、その者の委託を受けて物品の加工をなし、又はその者に原材料を販売する者が存在するのであつて、しかもこれらの者もまた、輸出に対して間接に貢献しているところから前同らの者についてもその取引による収入金額の一〇〇分の三に相当項第六号によつて、これする金額の損金算入を認めることとしたのである。そこで、輸出業者の輸出取引による収入金額全額についてその一〇〇分の三に相当する金額の損金算入を認めようとすると、特例の適用にあたり、右委託加工賃および原材料代金の範囲において委託加工者・原材料販売者と重復して損金算入を認める結果とならざるをえないので、このような不当な結果を避けるため、措置法第五五条第四項第一号により、輸出業者については、同条第一項第四号の取引による収入金額から原材料代金および委託加工賃を控除した金額の一〇〇分の三に相当する金額についてのみ損金算入を認めることとしたものと解せられるのである。従つて原告が、措置法第五五条第一項第四号に該当する物品を輸出したとしても、右製造輸出にかかる物品につき、他の者にその加工を委託し、又はその加工の対象となつた原材料を他の者から購入したのであれば、右輸出取引による収入金額全額ではなくて、これから当該委託加工又は購入のために委託加工者又は原材料販売者に支払つた金額に相当する金額を控除した金額に一〇〇分の三を乗じた金額のみを損金に算入することになるのである。

原告は、かような場合輸出業者として同条第四項第一号を適用されると著しい不均衡不合理が生ずる、すなわち原告が第三者から原材料を購入し、これを委託加工させて製造した物品を販売する場合(イ)自ら輸出せずに前同条第一項第六号の輸出業者に販売す前同項第五号により(この場合同条第四項第一号は適用されない)販売代金額の一〇〇分の三に相当する金額の損金算入が認められるのに反し、(ロ)これを自ら輸出すれば前同条第四項第一号の適用を受け輸出取引による収入金額から第三者に支払つた委託加工賃および原材料代金を控除した金額の一〇〇分の三に相当する金額しか損金算入が認められないこととなるが、このような著しい不均衡不合理は許さるべきでなく、従つて原告を輸出業者として前同条第四項第一号を適用すべきでないと主張する。なるほど、右の場合に原告主張のごとく課税上の利益の配分が少ないという消極的な結果が生じうる可能性はこれを否定することができないけれども、それは措置法が輸出業者等直接輸出取引を行う者(措置法第五五条第一項第一、二、四号所定の者)および同人に前同条第一項第四号所定の物品を販売した者、あるいは前同人のために委託加工をなし又は原材料を供給した者等(前同項第三、第五ないし九号所定の者)に対しては課税上の利益(所定金額の損金算入)を与えることとしているが右の者らのためにさらに委託加工をなし、又は原材料を供給した者には右課税上の利益を認めていなこと、(但し前同項第八、九号に規定する者は右課税上の利益を認められているので除く)に基づく結果であつて、これらの事実などを考えあわせると、多少の不均衡を生ずる面があるとしても、それは法が具体的にいかなる場合にいかなる者を輸出取引に貢献する者と認めていかなる方法程度において課税上の利益を配分するかという立法上の政策問題に帰するのであつて、それが極端でない限り受忍しなければならないところである。

しかして、<証拠省略>および弁論の全趣旨を綜合すると、原告は従業員二九名を雇用し、訴外土井被服有限会社等から学生服、作業服、シヤツ類等の衣料品を購入し、もしくは、原材料を購入して下請加工業者に委託して加工させ(形式上は、原告が原材料を購入した上、これを下請加工業者に一旦販売し、製品に製造加工せしめて製品を買入れている)これらの製品を訴外有限会社中山織維等の国内小売業者に卸売りするほか、主として沖縄向の輸出を併営しており、ミシン(三本針)一台を除き製造設備と目されるものを全く有していないこと、従つて原告の営業取引はその大部分が仕入、販売の形態で行われ、残余が原材料の仕入、委託加工、販売という形態で行われていること、原告は昭和三四年一二月ごろから輸出部を設け独自で輸出取引を開始し輸出による収入も別表記載のごとく増加し、本件事業年度においてその輸出取引による売上高は金一七九、四四六、九二〇円(そのうち金一一六、三八一、六三九円は完成品を購入してそのまま輸出した収入金額である)に達し、総売上高金五六八、五三九、四一一円の約三割強を占めるにいたつていることが認められ、右認定に反する証拠はない。はたしてしからば原告は他から購入した物品の販売を主たる業とし、常時物品の輸出を行う者すなわち、措置法第五三条第一項第六号にいう輸出業者というべきであり、従つて原告自らの製造により取得した物品の輸出による売上にかかる損金算入額は同条第四項第一号により輸出取引による収入金額から委託加工賃および原材料代金を控除した金額の一〇〇分の三に相当する金額というべきである。ところで、原告は本件事業年度において原告が製造することにより取得した物品による輸出売上金が、金五四、三九一、三五五円であることは前記のとおりであり、その物品製造につき第三者に支払つた原価たる生地代ならびに委託加工賃が金四六、三〇六、一二八円であることは当事者間に争いがない。そうだとすると結局原告自身の製造による物品の輸出にかかる損金算入額は右物品の輸出取引による収入金額金五四、三九一、三三五円から右金四六、三〇六、一二八円を控除し八五、二〇七円の金額金八、〇た一〇〇分の三に相当する金額金二四二、五五六円となる。

(4)、そうすると原告の本件事業年度における輸出取引による収入金額を基礎とした輸出所得の損金算入額は他から購入した物品の輸出による売上にかかる損金算入額金一、一五〇、三五九円と原告自身が製造した物品の輸出による売上にかかる損金算入額金二四二、五五六円の合計額金一、三九二、九一五円となる。

(5)、次に原告の本件事業年度における輸出取引による所得金額を基礎とした損金算入額を検討するに、原告の右所得金額が金二、〇一一、八二五円であることは原告の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなす。そうすると右損金算入額は右金二、〇一一、八二五円の一〇〇分の八〇に相当する金一、六〇九、四六〇円となることは計算上明らかである。

(6)、そうだとすると右(4) の金額が(5) の金額より少額となるから右(4) の金額金一、三九二、九一五円が原告の本件事業年度の輸出所得の損金算入額となる。従つて原告主張の輸出所得の損金算入額金一、八八二、〇九八円との差額金四八九、一八三円は結局損金算入が認められないこととなる。

四、叙上のとおりであるとすると、原告の本件事業年度の課税標準所得金額は当事者間に争いない金六、七二七、六三八円に右金四八九、一八三円を加えた金七、二一五、八二一円となり、結局、被告の再更正決定およびこれに対応する過少申告加算税賦課決定は適法というべきである。

五、よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 福井厚士)

別表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例